第10回ではロンドンの大英博物館にて木目金の鐔を調査した模様をお伝えしました。100年前に日本でその鐔に出会い、技術の素晴らしさ美しさに感動してイギリスに持ち帰ったに違いない、その同じ感動を得た調査でした。今回は同時期に訪れたアッシュモレアン博物館での調査の模様をお伝えします。
ロンドンから西に電車で1時間のオックスフォード市にアッシュモレアン博物館はあります。オックスフォードといえばご存知の通り、ハーバード大学などと並ぶ世界有数の名門オックスフォード大学のある町です。様々な学問分野の教職員と学生が同じ寮で寝食をともにし学ぶという「カレッジ制」になっていて、それら39のカレッジが集まる総合大学になっています。町の中心部はそれらの建物で占められていて、12世紀に建てられたゴシック様式の石造りの建物はどれもみな荘厳で歴史の重みが感じられ、圧倒される美しさです。
アッシュモレアン博物館はこのオックスフォード大学の博物館であり、1683年に開館した世界最古の大学博物館です。エジプトのミイラからコンテンポラリーアートまで幅広い所蔵品を誇り、日本展示室もありますが、なんと茶室まであるんです! ここでは実際に月に一度「お茶会」が催され(展示室内でですよ)、毎回大変な人気だそうです。
さてこの博物館に収蔵されている木目金の鐔の調査についてです。事前に日本美術部門のキュレーターの方に確認し、木目金の鐔3点、グリ彫りの鐔4点を調査させてもらう事になっていました。欧米では博物館のキュレーター(curator)とは学術的専門知識を持って作品の研究、収集や、展示企画業務を行う職のことで、日本の教授にも相当する専門職です。
調査当日出迎えてくださったのはキュレーターのクレア・ポラール(Clare Pollard)さん。日本の明治の工芸を専門とされていますが幅広く日本美術に通じておられます。2000年の秋には東京国立博物館で調査研究を行われたこともあり、日本語も話される笑顔が素敵な方でした。この日は鐔の調査に加え、収蔵庫、展示室も案内いただき、閉館まで丸一日がかりの調査となりました。
調査室の机は大英博物館と同じく作品を傷つけないように、一面にクッション性のあるフェルトとその上に薄紙が敷かれていました。
いよいよ実物と対面、一つ一つ計測し観察し記録していきます。まずは木目金の作品3点。
こちらは四つ木瓜(よつもっこう)型の小ぶりの鐔です。
赤銅(銅と金の合金)の黒色との2色を用いて、
全体に無数の丸い杢が施された大型の鐔。これだけでも123.5グラムもあり、刀全部では相当な重さだっただろうと改めて感じました。スイスのバウアーファンデーション東洋美術館によく似た鐔が収蔵されています。
とても珍しい装飾の鐔です。鐔の中央部分は3色からなる木目金の上にさらに別の金属を被せてあり、縁の部分も3色の組み合わせになっている大変手の込んだ鐔です。どんな派手好みのおしゃれな武士が持っていたのでしょうね。
一つ一つ何か所も厚み等計測し、詳細に写真撮影も行うため、あっという間に調査時間が経ちます。
グリ彫りの鐔4点の調査や収蔵庫、展示室については次回ご紹介しますので、お楽しみに!