さくらだより




<第18回> 木目金に使われる日本古来の金属

  2019年2月1日

「朧銀(ろうぎん、おぼろぎん)」「烏金(からすがね、うきん)」

これらは日本古来の金属の名前です。その色を表しています。自然界に移ろいゆく微妙な景色の色を身近にあるものの色になぞらえ、多くの名前を付けた日本人の感性はとても繊細と言えるでしょう。

江戸時代の木目金は、金、銀、銅、の他に「赤銅(しゃくどう)」、「四分一(しぶいち)」という日本独自の銅合金で制作されています。これらの金属の色の違いにより模様が生み出されているのです。この銅合金は素材のままでは銅の色に似ているため、銀や銅と積層してひねりや、彫りを加えて模様を作った時点では、見た目の色の違いははっきりしません。最後に煮色着色という伝統的な色揚げ方法を用いることで、色が変化し、はっきりと木目金の複雑な文様が浮かび上がるのです。

 

「朧銀」は「四分一」を煮色着色仕上げした金属の別名です。「朧」とは「朧月夜(おぼろづきよ)」という言葉からもわかるようにぼうっとかすんだような状態をあらわします。シャープに光る銀色にかすみがかかったような色を表現して名付けられたのでしょう。銀・1に対して銅・3の割合で合金されています。「烏金」は「赤銅」の別名です。カラスの濡れた羽の色に似ていることからこう呼ばれます。銅と金の合金で、銅100に対して金を1~5%入れます。

 

この煮色着色とは硫酸銅と緑青を水に混ぜ沸騰させた液で煮込む着色方法です。

煮込む時には金属の表面を極限まで凹凸の無い状態に磨きあげ、酸化膜も無い状態にして煮込み液に入れます。このため、煮込む直前になんと、大根おろしの液に浸すのですが、この方法は古来より現在まで変わりません。

煮色着色された金属は表面の色が変化した薄い被膜に覆われた状態になっています。金属の表面を錆びさせていると言えます。この薄い被膜は強くこすれるなどすると徐々に摩耗して失われていくため、仕上げにロウや透明な塗装膜で覆います。このため、現代において普段身につけるジュエリーに活用するには工夫が必要です。

杢目金屋では木目金の魅力を現代に活かすために、銅合金ではなくゴールドやプラチナを用いて表現するための技術開発を行いました。用いる金属の色そのもので模様を表現することで、毎日身につけていても美しい木目模様がいつまでも楽しんでいただけます。 この貴金属の積層による木目模様の表現にはさらなる工夫を施しているのですが、その話については次回ご紹介いたします。