さくらだより




<第12回> オックスフォード博物館鐔紹介

  2018年9月13日

前回に引き続きオックスフォード大学の博物館であるアッシュモレアン博物館での木目金関連作品調査についてお伝えします。先にご紹介した木目金の鐔3点のほかに、同博物館には木目金の元祖と言えるグリ彫りの鐔も4点収蔵されています。

これらを含め1286点もの鐔が収蔵されていて、そのうちの1264点にも上る膨大なコレクションはアーサー・チャーチ氏(Sir Arthur Herbert Church 1834~1915)が収集したものです。英国ロンドン出身で化学者(農芸化学、色素化学)であった彼は、日本の鐔の収集に熱心で、特に晩年は作品を系統立てて揃えるべく精力的に収集していました。そのためコレクションは非常に充実したものとなっており、これらの鐔に関する彼の著作は日本語にも翻訳されています。今回の調査では、このチャーチ氏の収集した鐔に関してアルバート・コープ氏(Albert James Koop 1877~1945)によって書かれた解説書(1925年)を見せていただくこともできました。一般には販売されなかった大変貴重な本のようです。中身は英語ですが、和綴じ(わとじ)になっていて日本で後に製本されたものです。

アッシュモレアン博物館のWEBサイトはとても充実しているのですが、特に東洋美術部門のコーナーは一般的なコレクション紹介ページの他に、このコープ氏の解説本に基づいた各作品の詳細な解説サイトを設けています。これによると、チャーチ氏の関心は植物と幾何学文様に関して高く、そのため人物や動物のモチーフが少ないようです。

だからでしょうか、彼の収集したグリ彫りの鐔はどれも比較的珍しく、中でも菊の花を表現したこの作品は大変珍しく、他では見られないものです。

丸型や木瓜型の鐔の中に唐草模様が彫られたグリ彫りの作品が多い中、この鐔は16枚の花弁をそれぞれグリ彫りで彫り出すことで立体的な菊の花を表現しています。

なおかつその彫り出しにより、赤色の銅と黒色の赤銅(しゃくどう;銅と金の合金)の積層が文様となって表れた、とても面白い構造になっています。

積層の線は多数の重なる「菊の花びら」を連想させます。櫃穴(ひつあな)部分の無数の小さな丸の型押しは「菊の花芯」を思わせます。
刀の鐔がだんだんと可愛らしく見えてきますね。

この作品も「菊鐔」と紹介されている鐔です。銀と赤銅の組み合わせがモダンとも言える、とてもシャープなデザインです。

 

こちらは唐草のグリ彫りですが、よく見られる鐔の全面を唐草文様で埋め尽くす形式ではなく、のびやかなつる草の様に曲線をグリ彫りで描いています。背景に赤色のぼかしを用いて絵の様です。優雅な華やかさを表現したとても珍しい作品です。現在の私たちが見ると、まるで西洋の装飾のようにも感じますが、江戸時代の職人はどのような絵を思い描きながら“デザイン”していたのでしょうか。想像すると楽しくありませんか。

 

4つ目のグリ彫りの鐔がこちらです。比較的よく見られる丸型に唐草が彫られたものです。

この鐔の紹介文の英語では「scrolls:渦巻」とされていますが、日本では「唐草文様」と呼ぶことが多く、つる草が絡む様を表し、その生命力を意味するため吉祥文様の一種として古来より良く用いられる装飾モチーフです。

 

今回の7種類の木目金とグリ彫りの鐔の調査、一つ一つ詳細に計測し、部分ごとに観察、撮影も行うため、資料閲覧や収蔵庫、日本展示室の見学も含め一日がかりとなりました。キュレーターのポラールさんに案内していただいた収蔵庫や展示室の様子は次回にご紹介します!

 

アッシュモレアン博物館
https://www.ashmolean.org/eastern-art