江戸時代に金、銀、銅や銅合金で作られていた木目金を現代の装身具に活用させるためには、ゴールドやプラチナといった貴金属に置き換えることが不可欠です。前回ご紹介したように、煮色着色により表面に薄い被膜を作る銅合金の色は摩耗により失われていく欠点があるからです。
杢目金屋代表の髙橋正樹は、木目金に関する博士号を取得しています。その博士論文「木目金ジュエリーの装飾表現の可能性」の中で、貴金属による木目金の可能性について述べていますので、一部概要をご紹介します。
博士論文の第二章において、それまでに復元制作した江戸時代の鐔の文様を貴金属に置き換えたカラーサンプルの制作を通じて、その装飾効果の検証を行っています。
その結果、まずは木目金が色の違う金属の色彩を自然に溶け込ませることが出来る新しい可能性のある技術であると述べています。ジュエリーに多用される貴金属の色は、金、銀、銅のグラデーション。木目金はその中間的な色彩のニュアンスを表現できると。
さらには素材と素材が織りなすことによって文様が成立するという木目金の本質の奥深さを貴金属による制作を通じて再認識したと述べています。貴金属に置き換えたカラーサンプルの制作においては、隣接する貴金属の色味が近いと肉眼ではその文様の差が識別出来ない組み合わせが存在したのですが、コントラストを明確にする仕上げ方法として、ほんの少し金属の腐食によって色の境目を強調し装飾効果を高める仕上げ方法を施しています。
素材の金属にねじりや彫りを加え平面にすることで模様を生み出している木目金を腐食によって再度立体にすることで、紡ぎ合わせられた各々の金属が互いに支え合い互いを活かして文様が成立している構造が強調され、そこに存在している支え合うエネルギーを改めて実感させられたと述べています。
腐食によるその僅かな高低差は、単に色と色との境目を明確にするという効果だけではなく、その積層の順番による境目の起伏を明示していて、それは、そこに存在する制作工程の時間の記録さえも明確化しているというのです。
貴金属により制作される木目金のジュエリーの文様は、複雑な色彩を表現しているだけでなく、それが作られた時間をも内包し表現していると言えるのかもしれません。