杢目金屋では毎年1点、江戸時代の名品である刀の鐔を復元制作しています。2017年4月に日本美術刀剣保存協会主催の「新作名刀展」に出品した作品は明治時代に制作された「木目金地鐔 銘 松山住 利信」の復元鐔です。2015年に出品したスイスの「バウアーファンデーション東洋美術館」収蔵の鐔復元作品の「努力賞」受賞に続き、この作品も同賞を受賞しました。
「木目金地鐔 銘 松山住 利信」の復元/制作 髙橋正樹
今回復元した鐔は杢目金屋の研究機関である特定非営利活動法人「日本杢目金研究所」の収蔵品です。明治時代に伊予国(今の愛媛県)松山で制作していた「山本利信」の作品で、大小の刀拵えとして二つの木目金の鐔が対で残されている大変貴重なものとなります。鐔の表と裏はそれぞれ「夜」と「昼」を表現しています。具象と印象の間とでもいうような表現として「夜と昼」は芸術における題材によく見られます。
表の「夜」の素材は「赤銅」と「銀」。「赤銅」は銅と金の合金で見た目は「素銅」と変らない銅色ですが、煮色着色を行うことで青みがかった黒色に変化します。裏の「昼」の素材は「赤銅」と「素銅」。「素銅」は煮色着色により赤褐色になります。
煮色着色とは硫酸銅と緑青の混合溶液の中で数十分から数時間程煮込むことで金属の表面を酸化させ色を変化させる方法です。意図的に金属を酸化させることで望む色に仕上げる古来よりある着色方法であり、これにより100年以上経った現在でも美しい色が残り、明治時代の「夜と昼」を今に伝えることができるのです。